明治時代の文豪、幸田露伴の作品「野道」は日本酒と杉板に味噌を塗って表面を焼いた板切れを持って出かけ、仲間と春の田舎道を歩き、様々な野草を摘んではお互いに振る舞いながら、摘んだ野草に味噌をつけて食し、日本酒を味わうという春の訪れと食を思いっきり楽しむ屋外での時間が描かれいる。
露伴は日本酒もビールもお好きだったようで、酒仙とも呼ばれていたそうだ。もし露伴が現代に生きていたなら、どんな日本酒を好んで飲むんだろうかとふと思い始め、それから暫くして見つけた日本酒がある。それが農口尚彦研究所の「観音下2019 Vintage」。
酒造りの神様とも呼ばれる醸造家、農口尚彦氏が酒造りの場所として選んだ場所が石川県小松市観音下町。銘柄の「観音下」は町の名前。
どのような町か? 観音下町は日本三霊山のひとつ、白山と、日本海に囲まれており、水と緑が豊かで、その約7割が里山が占めている。観音像のお堂が里山にあり、農作物、希少生物、木材、石材など里山資源に恵まれた場所。白山の伏流水と酒蔵近隣の田園で収穫された五百万石100%から醸造される無濾過原酒。
2019年度醸造のVIntageとはつまり2019年7月1日から2020年6月末に醸造された熟成酒を言う。ボトルラベルにが農口尚彦研究所の平仮名の頭文字の「の」と蛇目唎酒猪口をあしらったロゴが描かれている。
酒蔵のある観音下町の自然の恵みを表現し、しかも4年貯蔵させ時の経過を楽しむ日本酒をきっと露伴も好きに違いない。ペアリングには、筍と菜の花のすり胡麻味噌和え。味噌を取り入れて、露伴の「野道」へのオマージュとした。
観音下 Vintage 2019, 無濾過原酒
原材料名 米(国産)、米こうじ(国産米)、醸造アルコール
原料米 五百万石 100%使用
アルコール度 20度
外観 写真では分かりづらいがうっすら刈安色、かすかに梅、プラム様な酸を感じる香り、炊き立ての米の様な穀物由来の上立香。味わいはフレッシュなタイプとはリッチなアタックとコク、上立香同様な梅、プラム様なわずかな酸と次第に黒糖の様な香ばしさがあり、すっきりと静かにフィニッシュしていく。